不幸を背負って生きてきたからって、別にそういう話題と無縁なわけじゃない

『そりゃ、、、直接に関係してたのは無いけど‥』

ねぇ見て、ミランダ。彼はね、生徒会の‥
こんにちは、ミランダ。私ね、今この人と付き合ってるの。彼、ステキでしょ!?
久し振り、ミランダ。この人、街にできたレストランの‥

同級生は自慢したくなると、思い出したように私に会いに来た。

酷い人だったの、振ってやったわ‥ミランダはまだ付き合った事無いの?
別れたの、あ、ミランダはまだお付き合いした事無いのよね!?
女なんて面倒臭いだけだ。一人がいいぞ、一人が。ミランダが羨ましいぜ。

不幸だけど、もっと不幸なヤツがいるのを確かめるように、気が向くと私に会いに来た。

『隣部屋の夫婦喧嘩もよく聞こえたし』
仲直りするのもよく見た。

『私は‥』
生きるのに、、、というか、就職するのに懸命で‥
『誰かにときめいた事も無かったような‥』

【ミランダさん。】
           【ミランダさん!】
                      【ミランダさ〜んv】

『あのくらいの歳の子が何を考えてるか、、、、分らないわ‥』
私が声をかけるより先に、いつもアレン君は私の名を呼ぶ。
【アレンはいっつもミランダを探してるからなぁ】
リーバー班長はそう言ってたけど、アレン君は皆に優しいし、気を使う子だから‥
『はっ、そう言えばどうしてリーバー班長が私にそんな事言ったのかしら、、、、もしかして私、また何かドジってるのっ?』
ヒイィィッ
思わず漏れた声が廊下響いて、慌てて辺りを見回したけど
「良かったぁ、、、、誰も居ないわよね。」
安心すると、声が甦る。

【ミランダさん、好きです。】

『やだ、顔がアツい‥』
体温の低い手が、今はありがたい。
頬に手を当てると、少し落ち着く。

たとえばこれを、他の団員に言われたらどうだろう‥?
〔ミランダ〜、好きさ〜。〕
ラビ君は‥叫んでる姿しか思いつかない。
『ラビ君は、自分を隠してしまってる人だから‥きっと言わない』
3桁の失業経験で、天気を見るように人の顔色を見るようになった。
『いえ、、、、見てるはずだけど上手くいかないのよね、、、フ
気を取り直してもうひとりの10代少年を思い浮かべる。
『‥‥‥こわっ‥』
自分の想像なのに真正面から睨まれたところで、恐慌しそうになった。
『危ない、危ない。パニクってまたドジをするところだったわ。』
フ〜、と息とつくと、膝が笑ってその場にへたり込んだ。
『アレン君と同じ10代でも‥彼等は大人だ。私が守れる人じゃない‥』
神田君なら、足を引っ張れば叱り飛ばされるだろうし、ラビ君なら苦笑して尻拭いをしてくれるだろう。
じゃあ?
『アレン君は?アレン君だって、笑ってフォローしてくれる。』  大人
でも、彼は子供だ。どんなに私が卑小で、どんなに弱くても!”私”が守らなければならない子供だ。
こんなエクソシストになりたい、という目標ではなくて。どんなにアレン君が素晴らしいエクソシストでも!
「私には守りたい子供なんだわ。」
「じゃ、守って下さい、ど〜んと。」
「え?」
顔を上げれば、アレン君が私の後ろから覗き込んでいた。
「廊下にしゃがみこんでるから、気分でも悪いのかと心配しましたよ?考え事なら、せめてイスに座った方が。廊下の石畳では冷えてしまいます。」
お腹壊しますよ、と笑ってアレン君は手を差し出した。
「ありがと、、、、って、ア・ア・ア、アレン君?私の心、読んで!?」
「心は読めませんが、ミランダさん、喋っていましたよ?」
没頭するあまり、口をついてでたらしい。
「ア、アレン君、、、どこまで聞いて‥?」
「どこまでもなにも、ミランダさん、単語を呟いてただけで‥それによく聞き取れないし、気分が悪いのかと耳を澄ましただけで‥」
「そう、、、、」
安堵の息をつく私の手を、アレン君が取った。
「心が読めたら、僕だってあれこれ悩みません。心が読めないから、、、外してるかもしれませんが、大人になんて負けませんから。」
「アレン君‥」
「僕を守って下さい、ミランダさん。」
まだ少年の小さい腕で、アレン君は私を抱き締めた。
「守りたいわ、アレン君。こんな私だけど、あなたを。」

あれはこれは、、、たぶんきっと、、、

2008/5/27